「運命の扉 NO.12」 ~ ハイヒールのかかと ~

『運命の扉 NO.12』 ~ ハイヒールのかかと ③ ~


ただ彼女は私と話をしている間にも私の話に揚げ足を取るような事を何回も言っては、
その都度
「済みません。それを言っちゃ何も始まらないんですよね」
と反省するのだった。

「今日、私は相談に来ているんですよね!それなのに・・・、本当に済みません!」を
繰り返す。

私も一度、あまりにも話が続かないので声を荒げてしまった。
「何様のつもりなの?
そんなに大学出ている事が偉いの?
そんなに外資系に勤めている事が特別だと思ってるの?
今じゃ、英会話出来るのも当たり前、大学出るのも当たり前、ましてや外資系企業なんて
山ほどあるじゃない!」

「大体、学歴に拘(こだわ)らなくても、高校中退だろうが、出来る人は出来て、
立派に自分で会社興している時代にそんな事に拘(こだわ)ってる事自体、
時代遅れでしょ!」

「解っているんです。頭の中では充分理解しているんです。
でも・・・、直ぐ頭悪いんじゃないのと思った瞬間、学歴とか、
いつからこの仕事やっているんだろうかとか・・・が気になっちゃうんです」

私と彼女は同じ世代で学歴が大切な時代と言われて、良い高校、良い大学、有名企業に
入る事が本当に素晴らしい人生に繋がると考えられていた。
そんな事で人間を判断してきた時代だった。
事実私も彼女自身もそれで判断されてきた。

私はそんな事はどうでも言いと思い、人と比べられる事も比べる事もしなくなって
靴を脱いでしまった。
反対に彼女はそれを大切にして競争社会を生きてきた。

今は学歴なんか関係ない、実力さえ有れば認められる時代だ。
彼女は彼女が未だに履いているウォーキングシューズと同じように完全に時代に
取り残されてしまった。

今彼女が「運動靴を脱ぎたい」と思っているのなら、人が自分の事をどう思うだろうなんて
気にしない事。
人は人、自分は自分、人と比べても人それぞれなんだから、今は比べてもしょうがないと
いう事を話し合った。

40代からの運もあるから、その前に彼女のプライドの高い性格を少しずつ直す方法を話した。
40代になってからでは彼女の受ける打撃の大きさを考えれば、今から少しでも直しておけば彼女自身も受け入れ態勢が出来ていて慌てないで済むだろう。

鑑定が終る頃には素直な白い運動靴を履いた小さな少女の彼女が私の隣に座っていた。

そんな彼女にウォーキングシューズの事を聞いてみた。
「もう、癖になっちゃって・・・。
私も20代の頃は、凄く恥ずかしかったんです。
やっぱり変ですよね、スーツに運動靴なんて!
付き合っていた彼氏にも、私の帰り姿を見られて、何回も馬鹿にされました。
彼と会う約束の日はちゃんとハイヒールを履いてましたから・・・。
今は楽なんで履いているんですけど・・・が本音。
これって、ただの女やめたおばさんですよね~」

私も大きなお世話だと思ったが同じ世代の女として
「これから、結婚したいと思っているんだったら、女やめてる場合じゃないと思う。
20代の頃と違って誘いも少ないんだから、今こそ内面は当たり前だけど、外見にも
気を使わなきゃ!いつ出会いがあるか分からないでしょ」と意見した。

「そうですよね~。これを機会にやめます!」
そう言った彼女はバックから思いがけない物を出した。
それは今日のスーツに合わせた茶色のハイヒールだった。
「一応、使わなくても、毎日持っているんです」

私は嬉しくなって叫んだ。
「何だ!女を捨ててないじゃない!」

小さな少女は運動靴を脱ぎ捨ててハイヒールを履くと
「これ、捨ててもらっていいですか?」
と私にウォーキングシューズを渡し、颯爽とキャリア・ウーマンになって帰っていった。

彼女のハイヒールのかかとのカツカツという音と入れ違いに
彼女の残していったウォーキングシューズと小さな小さな時代遅れのプライドが
私の隣の席に座っていた。

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