「楽屋の憂鬱 NO.1」 ~ STAY WITH ME ~

『楽屋の憂鬱 NO.1』 ~ STAY WITH ME ~

あるお客さんの為に、毎月1回、暇な時間に、勝手に私が必ずかけるカラオケの歌がある。
この何年もの間、毎月1回必ず実行してきた。
歌うわけでもなく、ただその曲を流すだけ。
それは既に私の中で月1回の儀式となっている。


ある日、お客さんからビックリするような事を言われた。
「前には、有ったのに無くなっちゃったよ、俺の歌いたい曲!」
「嘘でしょ?他の店と間違えているんじゃない?うちはユーカラだよ!」
私はそんな馬鹿なと言う気持ちでカラオケの本を覗き込んだ。

「違う違う!ここで歌った。だって○○さんとハモッタもん」
記憶を呼び戻すと、確かに初対面で二人がハモッテいた事を思い出した。

さり気なく最近歌われていない自分の好きな曲を探してみる。
アッない! ない? ない! ない・・・?

慌てて次の日、ユーカラ担当者を呼びつける。

しょっちゅう呼び出されている担当者は、
「今度は何ですか?又、音の問題ですか?」と、いい加減ウンザリといった顔で現れた。
「あのさ、いい曲がドンドン無くなっているんだけど!
一体どういう事!?大体、これ通信カラオケでしょ?」
「あ~、機械にも許容量が有るんですよ。毎月100曲くらい新曲が入るから、全国で1ヶ月に1回歌われないと無くなちゃうんですよ。
曲が多い歌手が中心ですけど・・・」
「本当?でも、じゃ、この演歌は月1回は歌われているって事?」
「演歌は意外に、田舎じゃ、強いんですよね~」

とても田舎でも歌われているとは思えない演歌だったが、
そんな事を言い返しても仕方がない。
機械にも弱い私だから、これ以上説明されても聞いてる振りをして、
聞いてない事も解っているので時間の無駄だと思い、もう一度確認だけして担当者を帰した。

「じゃ、とにかく1ヶ月に1回、全国で歌われないと無くなってしまう可能性が有るって事ね?」
「まあ、そうです」
意外にも早く済んだと思ったのか、担当者はホッとした感じでソソクサ帰って行った。


それ以来、なるべくお客さんが歌う曲で全国で1ヶ月に1回歌われそうに無い曲を選んでは、時々暇な時間があるとカラオケだけを流してきた。
何人かがバッテイングして歌われている曲なら、その中の誰かが1ヶ月中に来てくれて
歌えばいい。
しかし「楽屋」では一人しか歌わない曲、そして私も大好きな曲がある。

1988年頃、ニッポン放送のオールナイトニッポンのエンディングで、しきりに流れていた。

彼は初めて店に来た時にその曲を歌った。
誰にリクエストしてもその曲は歌う人がいなくて断られ続けていた私には、
彼が突然その曲を歌ったのは意外だったが本当に嬉しかった。
時々しか彼は遊びに来なかったが、彼が来るたびにリクエストをした。

そして彼は地方に転勤になった。
歌う人を失った曲はそれから歌詞を忘れた。

歌う人がいない曲。
歌手を待って、ひとり流れるメロディ。
今、この曲が流れている間に彼が来ればいい!
早く終ってしまう前に来て、マイクを持ってくれればいい。
途中からでもいいから歌って欲しい。
毎月、待っているんだ、貴方だけを、この曲は・・・。

それは、私によく似ていた。
いつも「楽屋」で誰かを待っている私に。

時の流れの中で彼は東京に戻って来た。
しかし久しぶりに来た彼はこの曲を歌わなかった。
さり気なくリクエストしたが「懐かしいな」と笑っていただけだった。

私が、どんなにこの曲を聴くのを楽しみにしていたか・・・、
この曲が、どんなに歌手が来るのを待っていたか、彼は知らない・・・。
知らないんだ!

その瞬間、時間の重みが私の横をそっと通り過ぎた。

彼は、今月も多分来ないだろう。
来ても、もう二度とこの曲を歌う事は無いだろう、きっと。

そして今月も私の月1回の儀式が始まろうとしている。

カラオケナンバー6036 アイランド「STAY WITH ME」

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