「運命の扉 NO.13」 ~ 360度の地平線 ~

『運命の扉 NO.13』 ~ 360度の地平線 ~

晴天の東京の空の見送りを背に、北北東へと進路をとって飛行機は北海道を目指していた。
窓の景色が外の寒さを感じさせるように、少しどよんできたのが見える。

今年は秋が短く、夏の終わりから秋を感じる間もなく、急に先週から寒くなって
東京でも「冬将軍」の到来を感じていた。
冬が苦手な私にとって、窓の外のねずみ色の空は寒さ以上に私の心を不安と憂鬱にさせた。

初めての占いの出張鑑定に今私は札幌の知り合いの所に向かっていた。
場所が違う・・・、雰囲気が違う・・・、
まず私自身が落ち着かないと、と思いながら、どうしても、その不安をぬぐい切れないまま
飛行機は千歳空港に降りたった。

明らかに私の事を歓迎しているとは思えない風の冷たさを頬に感じながら、
この仕事を請けた事を後悔し始めていた。
「何で来ちゃったんだろう?」
独り言が自然に口をつく。
結局、私は閑散とした空港の中から電車に乗り換えるまで、
ず~とブツブツ文句を言いながら歩き続けていた。

しかし札幌行きの電車に乗り窓の景色を見ているうちに気持ちがすっかり落ち着いている事に気が付いた。
それは間違いなく雪景色のせいだった。

東京の雪は降った横から汚れていくので汚いイメージが強い。
折角積もっても人が多いからビチョビチョになって真っ白い雪という時間は本当に短い。

ここの雪は違う。
誰も知らない所でヒッソリ降っていた。
そして誰にも邪魔されない草原に白の画用紙を広げたようにすべてを覆い尽くしている。
そこには人の気配も生き物の気配もまったく感じられない。

久しぶりに私は自分の心がかなり病んでいることに気が付いた。
たった35分くらいの電車の旅だったが、私は浄化されたような気持ちになり
私の不安と憂鬱は白い画用紙がいつのまにかそっと吸い取ってくれていた。
「来て良かった」
白という色に、そして雪のマジックに感謝せずにはいられなかった。


どこに住んでいても、状態は少しずつ違っても、人の悩みというのは殆ど変わらない。
東京でも、それは札幌でも・・・。
仕事の事、恋愛の事、家庭の事など・・・。

ただ、東京の人と大きく違うのは「時間の長さ」が違う。

東京では、明日からでも、今日からでも、直ぐ上手くいきたいのでどうしたらいいかと言う
注文が多い。
切羽詰っているという感じをどうしても前面に出してくる人が多い。

でも、ここは違う。
悩みは同じでも、もっとゆっくりしている。
北海道という広い大地がそうさせるのか・・・、
焦っている気配は全く感じられない。
でも悩みは同じ・・・。

私は不思議な気持ちになった。
同じ悩みを抱えているのに、ここの人達はもっと遠い先を見ている。
はにかんで微笑む顔の真ん中で澄んだ瞳が私をそっと優しく包んでいた。

東京という街が時間を短くしている。
誰もが目の前の今日の事に忙しすぎて、先の事を冷静に判断出来ないのではないか・・・、
ただ、ただ、私達は先が不安という事だけで怯えて暮らしている。

帰りは車で千歳空港まで送ってもらった。
札幌から離れると、来る時、電車の中から見た白い画用紙で覆われた平原が再び現れた。
片側でしか見えなかった景色が、今は360度広がっている。
今日は白い画用紙の上を2頭の馬が跳ぶように走っていた。

その先にハッキリ見える360度の地平線。
私は何回も車の中から身体を動かしながら、360度の地平線を追い続けた。
当たり前の事とは言え、本当に見る360度の地平線の存在に
私は驚かずにはいられなかった。

何物にも遮られず、存在する、その遥か彼方の幻想。

「あ~、私はこの地球に生きているんだな~」としみじみ自分の存在を思った。

そして、今、私は遥か彼方の地平線と2頭の馬が自分と重なっていくのをしっかり感じていた。

それは東京で待っている人達に、これから先大きな夢を見てもらう素晴らしい絵になった。

これからも前だけをしっかり見て歩いて行こう。
そして疲れたら360度見渡してみよう。
そこに自分の存在がある。
自分が生きている答えがある。

「さあ、帰ろう、私の大好きな大好きな東京へ」

飛行機は私の思いを乗せ南南西に進路をとって、白い画用紙の上を飛び立った。

2002年11月11日

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