「運命の扉 NO.10」 ~ 海に溺れた月 ~

『運命の扉 NO.10』 ~ 海に溺れた月 ③ ~

彼女は私と話している間中、私の顔を見ながらハンカチで涙を拭いよく頷いていた。
相変わらず彼女の目からはとめどなく涙がこぼれていた。

「無理に別れようと思っても、今は絶対無理だよね」と私。
「私も、そう思います」と彼女。

事実、何度も挑戦した彼女の悲しい性(サガ)がそこにあった。

「彼を失ってからの生活の事、考えた事ある?」と私。
「・・・、・・・」と彼女。

この私の問い掛けは予想してなかったのか、彼女はハッとしたようで息を止めた。

淋しさのため夜の街を彷徨い、埋められないと解っていても誰彼ともなく飲み歩く日々。
もうこれ以上入らないだろうと思える無理矢理入れた夜のスケジュール。

今、私の過去がまさに彼女の現実とオーバーラップしていた。

「奥さん・・・、気が付いてますよね~、きっと!」と彼女。
「多分、ううん間違いなくね!」と私。

そう言った彼女の向こうに知らない女の顔が浮かんでいた。

「きっと言わない、知っていても!
賢い女は絶対何も言わない。必ず旦那が戻って来るという自信があるから、きっと」と私。
「そうですよね~。なのに彼は絶対バレテナイって言うんですよ。・・・幸せな男です!」と
呆れ気味の彼女。

次の瞬間大きく彼女の肩が又揺れた。

「何だか、私馬鹿みたい・・・」
言葉の語尾に押し殺したような彼女の泣き声が続く。

とどまる事を知らない彼女の思いと涙が海になって、私を溺れさせる。

「そんな事ない!
たまたま恋愛の形に問題があるだけで、人を好きになる事は素敵な事だから」と私。
「本当・・・、馬鹿みたいですね、私」
そう言った後、彼女の言葉は失われ嗚咽だけが残った。

終らない、いや終れない彼女の今が私の口いっぱいに潮水となって広がり私を息苦しくする。
私は今間違いなく過去という海に溺れていた。

彼女の存在も忘れて私の頬をつたう涙は私の遠い昔を蘇らせ、そして占い師を忘れさせた。

しかし彼女は私の涙を誤解した。
「こんな意気地のない弱い私のために泣いてくれて・・・、ありがとうございました。
時間掛かると思いますが頑張ってみます」
そう言うと、
彼女は私が過去にすがった終わりのない同じ夜の街へ消えて行った。

彼女を見送った後、夜空を見上げるとそこには月はなかった。
今宵も月は又どこかの海に溺れているのだろうか?
終わりなき夜の果てに。

『海に溺れた月』

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