「運命の扉 NO.23」 ~ エンゲージリング ~

『運命の扉 NO.23』 ~ エンゲージリング ② ~

「どうしちゃったの?」
私は彼女の左手の薬指に婚約指輪がまだ輝いているのに、安心しながら彼女に尋ねた。
顔色も悪くない・・・、人相も悪くない・・・、痩せている様子も無い。
私は一先ずホッとした。

「あの・・・、くだらなくて、あまりにもくだらないので・・・、
こんな事、先生にしか言えないんですけど・・・」
「何?どうしたの、本当に?」

彼女はちょっと泣きべそをかきながら小さな声でボソボソと訳の分からない事を言い出した。

「名前が・・・」
「エッ、何? な・ま・え・・・?」
「名前が・・・、い・・・、嫌なんです!」
「名前が嫌なの?どうして?」
「彼の苗字が・・・、結婚をやめたいんです!」
「え~?彼の苗字・・・?・・・、あっそうか!」

彼女は結婚すると、当然彼の苗字に変わる。
彼の苗字は日本ではよくある苗字で、多い苗字順でいけば必ずベスト10に入る苗字だと
思う。
その苗字が問題ではなくて、彼女の名前と一緒になると、
ある有名人の名前になる事が問題なのだ。
その有名人が最近ではあまりよく思われていない人なのだ。
むしろ「大嫌いな芸能人ベスト10」に上位に入っており、この5年くらい常連となっていた。

聞けば会社の人たちに結婚の報告をした時、みんなから、からかわれたのだと言う。
又、女性の人達からは、
「私だったら、絶対結婚をやめる!」
とまで言われて、すっかり落ち込んでしまったのだ。

くだらない事とはいえ、彼女にとっては結婚を取りやめにしたいほど重大な事なのだ。


「じゃ、結婚やめたら!」
私は思い切ってキツイ事を言う事にした。
「そんなことで結婚するのをやめようと思うなら、これから先、思いやられる事ばかりだから、
やめたほうがいいよ!」

「そんな~、だって・・・、やっと・・・、結婚できるのに・・・」
「やっぱりね!だって結婚やめたいんでしょ?」
泣きべそをかいた彼女の顔が大きく横に揺られた。

「どうしようもないでしょ、彼の苗字を変える訳にはいかないんだから」
「どうしよう?嫌で、たまらないんです。本当にどうしたらいいんだろう?」

彼女の気持ちも判らないでもない。
しかし誰の人生でもない、彼女の人生なのだ。
彼女自身が考えなければならないのだ。

「先生、本当に彼と私は相性がイイんですよね?」
「うん、占いの鑑定ではね!
でもね、それだけじゃ決められないよ」

本当に彼女と彼の相性は大変良かった。
彼女は夏のダイヤモンドの人で、彼は春の大海の水の人だった。
二人がお互いに持っているものを必要としていて、又それは相手を確実に良い運へと導く。
お互いの大運は結婚運が回っており、二人が出会ったのは結婚する為といっても
過言ではなかった。
時期も大変良いという事になる。
しかし結婚というのはこれだけでは決められない。

「一生の事だから、焦らないでゆっくり考えてみたら、名前の事だけじゃなくて・・・。
後で後悔する事が一番残念な事だと思うから。
彼はイイ人だから、どんな結果になっても許してくれるよ、きっと」

その日彼女は自分の悩みを他人に話した事でホッとしたのか、
「少し、考えてみる」
という事だけを言い残して帰って行った。

私には彼女の左手の薬指にはめられた婚約指輪の輝きだけが目に焼きついていた。


③につづく

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