「運命の扉 NO.33」 ~ 失われた記憶 ~

『運命の扉 NO.33』 ~ 失われた記憶 ② ~

「あの~」
私は彼女のこの言葉にドキッとした。
結構このパターンは多い。
鑑定後に様々な事件は起こると言うか、重い事が多く現われてくる。
「はい?何か?」
しかし彼女は違った。
「先生、この後少し時間あります?もしよかったら30分延長して下さい。
でも占いじゃなくて、私の事を覚えていて欲しいんです。
だから・・・、その為には私の過去のことを先生に全部知っていて欲しいんです。
これから変わる自分を知っているのは先生だけだから・・・」

私は彼女が何を言っているのか最初は分からなかった。
でもこの後彼女の過去の話を聞いて、本当に彼女はたった一人で変わろうとしていて、
その現場に今いるのは私しかいないんだという事に改めて気付かされた。

そして彼女の過去がゆっくり流れ出した。

彼女の背中には遊びで彫ったわけではない、
しっかりした刺青が彼女の人生を支配するように横たわっていた。
「この刺青のせいで・・・、夏がいつしか嫌いになりました。そして、いつの間にか
昼も嫌いになりました・・・」
彼女の過去はこの言葉から始まった。
白いツーピースの上着を脱いで、その下に着ていたワインカラーのブラウスのボタンを外すと、
ゆっくり立ち上がり彼女は私に背中を向けて、蝶がさなぎから脱皮するようにブラウスを
腰まで下げながら言った。

その言葉に今では彼女の思いは何も感じられなかった。
ただ淡々と彼女の口から出る言葉が反対に彼女の壮絶なる過去を物語っているようにも
感じられた。

彼女は22歳の時に人の紹介で知り合った26歳の男性と結婚していた。
彼女が彼に初めて会った時、彼は若いながら自分で不動産関係の会社を興し社長だと
紹介された。
彼は昔の男らしく、女は家の事さえしっかりやってくれればいい、仕事の事には女は一切口を
出すなという男で、彼女もそんな彼の男らしさと強さに急激に惹かれていった。
その為に仕事の詳しい内容は特別聞く事はなかった。

ただ付き合っていくうちに、時々デートの途中で現われる彼の会社の部下は
彼女が知っているサラリーマンとは少し違っていた。
確かに白いワイシャツにネクタイを締めて背広をしっかり着た年配の普通のサラリーマン風の
人もいたが、派手なカラーシャツにノーネクタイという若い人も数多くいた。
不思議な顔をしている彼女に対して彼は口癖のように、
「自分も若い時不良だったから、あいつにも更生して貰いたいんだ。
あんな顔してるけど性格は優しいんだよ、あれでも!」
彼女に何も言わせずグイグイ引っ張っていく彼の勝手な行動に彼女はむしろ幸せを感じて
結婚を決意した。
夜の水商売で色々疲れていた彼女にとっては、男らしく自分で会社も経営しており
色男だった彼は本当に現われた理想の男性に思われた。

結婚して間もなくだった。
彼の態度は結婚しても変わらず、彼女は仕事を辞め専業主婦として普通の幸せな新婚生活を
送っていた。
彼の部下が怪我をして入院したから病院で世話をしてやってくれと彼に頼まれて病院に
行った時だった。

彼の部下はヤクザの闘争に巻き込まれて重傷だった。
慌しく医者と警察官が出入りする病室の隅で彼女は色々な事を初めて知った。
彼の会社は表向き不動産会社だが本当は誰もが知っている暴力団の組の一つ、
彼はその組の組長で彼の部下はすべて組員だった。
彼自身も何日か取調べを受け自宅には家宅捜査も入り若い衆の出入りが激しくなり、
彼女の新婚生活は一変した。

彼女はこれを機会に彼と別れる事を考え、何度も彼に訴えたが離婚は許されなかった。
いつの間にか極道の妻として・・・、組長の妻として彼女は小さな鳥小屋に住む鳥になって
彼に務めてきた。

③につづく

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