「運命の扉 NO.37」 ~ 独立という名の孤独 ~

『運命の扉 NO.37』 ~ 独立という名の孤独 ① ~

扉を開けた男の顔は疲れきっていた。
と言うより、見える印象が少しみすぼらしかった。
生えかかった無精髭がまばらに彼の顎を覆い、ボサボサの頭が今の彼の状態を
よく現している。
いつの間にか身なりにも気を使わなくなってしまった。
ただし本人がそんな事には全く気が付いていないという方が大きな問題で、鑑定の前に
顔を洗った方がいいという感じだった。

「あの~、サラリーマンを辞めて独立したんですけど・・・、ちょっと上手くいっていなくて。
サラリーマンの方が良かったんじゃないかって、最近思い始めているんですけど・・・。
自分は自営に向いていないじゃないかなと思いまして・・・」
見た目とは違い、ちょっと威張った口調で彼は言った。

私はそんな飛び込みでやって来た横柄な彼の鑑定表を作りながら少しずつ聞いていく。
「え~と、向いてる向いてないの前に、何関係の仕事?」
「所謂IT関係です」

IT関係はここ最近既に伸びは止まっている。
間違いなく厳しいのは確かである。

最近では早期退職制度を利用して退職金を元にサラリーマンから独立する人が多い。
又身内や友人達と一緒に会社を起こす人もいる。
昔と違って同じ会社に長く勤めるという時代は終わった。
誰にもビックチャンスが待っている。
ドリーム・カム・トゥルーである。

しかし全員が全員上手くいっているとは限らない。
寧ろチャンスを掴んで成功している人は少ないだろう。
勿論私を訪ねて来る人は少なからずとも、まだ成功している人ではない。
夢の途中だったり駆け上がる前の人達である。

彼のように独立したが資金繰りに困ったり事業が進まなかったりで、自分本来の実力が
発揮出せず自信を失い、自分は自営業に向いていないのではないかとサラリーマンに
戻りたいと相談してくる人も少なくない。

私は当然ながら、彼が事業を起こして頑張ってきたがこの何年か行き詰って苦しんできたと
思っているので、まず事業内容を尋ねた。

「今はどんな感じなの?」
「仕事がないんです。やっぱり向いてないのかな~?最近では全くヤル気も出なくって・・・」
まるで彼の言い方は他人事のようで、私は少し不愉快な気持ちになったがそのまま質問を
続けた。

「どのくらい前から、そうなの?」
「独立したのが今年なんですけど・・・、それから」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って!」
私は鑑定表を作っている手を止めて、初めて真正面から彼の顔を見た。

「会社起こしたの、今年なの?」
「はい・・・」
「だって今3月なんだから、じゃ会社起こしたばかりじゃないの!」


②につづく

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