≪死んだらいい人? NO.1≫

≪死んだらいい人? NO.1≫

最近友人と飲んでいて、珍しく少しシビアな話になった。
「仕事仲間が膵臓ガンで最近急に亡くなったんでお葬式に行ってきたんだけど、他人の事って本当に分からないね~。凄く親しくしているつもりでも、本当にその人のほんの一部分しか知らなかったんだな~とつくづく思った!」

友人曰く、
お葬式の会場で色々な人の故人の話を聞いたようだったが、自分と同席した仕事仲間以外は誰一人として、自分達が思っている故人と同じ思いの人はいなくて、反対に今この人達は一体誰の話をしているのだろうと思える事ばかりで、自分は30年近く故人と一緒に何度も仕事をしてきたが、初めて聞くエピソードばかりでビックリしたそうだ。
「聞いていると、まるっきり他人の話みたいなんだよ!そんなに人間って、人によって見方が変わるものかな~?俺の思っている故人とは全く違っていて、今更ながら俺は30年近く一体誰と仕事をしていたんだろうと、ちょっと気味が悪くなった・・・」
それで、友人は葬儀の最中も凄く不思議な感じがしたそうだ。

友人はその故人とは違う会社のライターとカメラマンと言う立場で20代の初めに知り合い、出版社の仕事などでも二人で組んで仕事をする事も多く、その事もあり、30歳前にお互いがフリーランスになった後も、気が合った二人は各自がクライアントから仕事を貰うと、クライアントにお互いを推薦する形で紹介して一緒に仕事をする事が続いた。
国内や海外出張などにも何十回と、二人で組んで行っており、40代の後半には半年以上も海外で一緒に仕事をする事になり、しかも予算の少ない仕事だったため、ホテルの同じ部屋でほとんど毎日一緒に半年以上過ごしていたと言う。

「彼の食事や女性の好みも分かるし、彼のちょっとした癖なんかも知っている。
少し感情的な面がある自分とは対照的で、彼は感情をあまり表には出さず、いつも明るくて屈託のない笑顔が印象的で話し方もソフト、そんな彼が話し出すと、険悪だった場もたちまち穏やかな雰囲気となり、自分も一緒に仕事をしていて何度も助けられた。
当然の事だけど、自分も彼の事は身内より長い時間を過ごしてきたので、知っているはず・・・だったんだけどね」と友人は言った。

しかし、葬儀で聞いた故人の話は友人の知らない事ばかりで、驚くことばかりだったと言う。
しかも、彼は他の人達にとっては大変悪人のような存在だったようだ。

そして友人の話は続いた。
葬儀は所謂普通通りで、その後火葬場に移動したのだが、かなりの人達が火葬場にも同行していたので、自分を含め、故人は交友関係がかなり広かったのだと最初は思っていた。

その後、お別れの会みたいのがそのまま葬儀会場に移動して行われた時にも、人の数も減ることもなく、ここにも、かなりの人がそれに参加していたので、彼はやはり故人がみんなから大変好かれていて、人望が厚かったのだと、感心していたそうだ。
ところが、その会が始まって、親族の簡単な挨拶が終わって、みんながそれぞれ食事をしながら歓談し始めて少し経った頃、突然その事件は起こった。

「死んだらいい人なの!なんで、みんな彼をいい人のように言っているの!ここに居る人の殆どが彼を恨んでいるはずだし、今日だって、みんな、彼に貸したお金や騙し取られたお金の事が心配で来ているんでしょ!格好付けてないでよ!」会場の何処からともなく、突然、怒号のような声が聞こえて来た。
一瞬で会場が水を打ったように静まり返り、怒号のする方をみんなが明らかに捜しているようだった。

と同時に故人の両親の傍にいた老夫婦と娘と孫2人と思われる5人が席を立ちあがって
会場の出入り口に向かおうとしていた。
「奥さん!逃げる気!待ちなさいよ~!」又会場に怒号が響き渡った。
その響き渡った声の方を見ると、パンツ姿の喪服を着た女性が会場の隅の方の席から立ちあがっていた。
そして、その彼女の発言は出入り口に向かっていた5人の背中に一本の長い矢を指したように、5人はその場に立ち尽くした。

『奥さん?』『えっ、彼は結婚していたの?』『子供がいて家族もいる?』
30年近く一緒に仕事をしてきて、一度も家族がいる事を故人から聞いた事もないし、そんな素振りも故人は見せた事もない。
彼が心の中で何度も自答自問を繰り返した後、隣に座っていた一緒に来た出版社の人の顔を見ながら首をかしげると、その出版社の人も小さく頭を振りながら同じように首をかしげる仕草をした。

そうこうしている間に、会場の係員のような人達が慌てて、出入り口に向かっていた5人を保護するような感じで会場の外に連れ出していて、
そして、いつの間にかパンツ姿の喪服を着た女性が故人の両親の席の方に向かっていた。

そして、また彼女は歩きながら、今度はあきらかに大声で同じ事を言った。
「死んだら、もう、いい人なんですか!?」
そして、その女性は戸惑ったまま俯いている故人の両親の前まで行くと、彼らのテーブルに大きな音を立てて手を置いた。
すると、彼女が次に何かを言う前に、何処からともなく沢山の会場の係員のような人達が急いで彼女の周りを取り囲み、無理矢理彼女を会場から出そうと揉み合い状態になってしまった。
しかし、その騒ぎは3分くらいで治まり、彼女は会場の外に連れ出されたが、会場の中はまだ静かで、誰も何も言わないままだった。

少し経って、故人の両親の近くに座っていた親族と思われる男性が突然立ち上げり、気を利かせたのか、
「まあ、今日のところは故人を偲んで・・・」そこまで言うと、その人は少し言葉を詰まらせてから「お金の件はまた違う時に・・・、さあ、飲んで食べて下さい!」と言葉を続けた。
その彼が席に座ると、いっせいにそれぞれの席から話し声が聞こえ始め、一気にその場は様々な言葉で溢れた。

自分と出版社の人だけは訳が分からず、同じテーブルの人達の会話を黙って聞いていた。
最初はこの状況に戸惑っていたせいもあり、周りが何を話しているか本当に訳が分からなかったが、聞いているうちに周りの会話もしっかり聞き取れるようになり、そしてその内容は大変興味深いものだった。
出版社の人も自分と同じ事を考えていたようで、お互いに何度も目を合わせ、お互いが相手にすぐにでも話かけて確認したい事だらけだったが、自分達はそれを我慢して周りの話を聞くことに兎に角専念していた。

それは、それは長い沈黙で、まるで自分と出版社の人が何か場違いの所に紛れ込んでしまい、話を聞いていいやら、聞いたところで、どういう反応をしていいやらで、何故か自分達が物凄く悪いことしてしまって、黙っている自分達がみんなに責められているような感覚に襲われていた。

「もう、死んじゃったんだから、お金はどうなるんだろうね~、返ってこないでしょうね~」
「離婚しているし、全て奥さん名義になっていて、奥さんの方にも請求出来なような事を弁護士も言っていたし・・・」
「しかし予想をしていたけれど、こんなに被害者がいるなんてな~、本当に驚いたよ」
「まあ、とにかく昔から口が上手かったからね~」
「一番酷い人なんて、3000万以上は騙されたみたいだから、総額は一体幾らになるんだろうね~」
最初はこのような会話がどのテーブルからもヒソヒソ話と言う形でされていたが、いつの間にかその声の音量は通常の会話をするものと変わらないまでになっていて、葬儀会場はあきらかに怒って話をしている人が大半で、その中に諦めている人、そしてよく見ると泣きながら話している人もいて、先程の彼女の事件が起こる前の故人を偲んでいた会話の内容とは全く別なものとなっていた。

その話の内容からすると、故人は怪しい先物取引に最初に自分が手を出し、かなりの借金をする羽目になったことがきっかけで、その穴埋めに、その後、色々な人を巻き込んでネズミ講やマルチ商法にも手を出したようで、次から次へと土地やら金(きん)やらの話を持ち込んでは、周りの人達からお金を集めていたようだった。
そして、結果的には自分だけはマージンのようなものをかなり受け取っていたが、本体は詐欺まがいの集団だったようで、いつの間にか消えてしまい、お金を出した人達には紙くずとなった証書だけが残されている状態で、今も裁判にもなっているようだが、故人は既に自分の財産を5年くらい前の離婚と同時に全て妻名義に変えてしまったようで、故人自体の財産は殆ど無いのが現実のようだった。
NO.2につづく

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