「運命の扉 NO.23」 ~ エンゲージリング ~

『運命の扉 NO.23』 ~ エンゲージリング ③ ~

4日後、彼女から再び鑑定予約の電話が入った。

予約の日の夕方、私の前に現われた彼女の左手が彼女の答えを出していた。
左手の薬指にはある筈の指輪は無くなっていた。

私の隣に座った彼女に私は静かに聞いた。
「大丈夫?」
「ええ、大・丈・夫・です」
彼女の震える声が彼女の悲しみを語っていた。
「二人できちんと話して、決めた結論ですから・・・」
とも、言った。

彼女は名前の事を彼に話したと言う。
名前の件は彼も大変気にしていて、話し合いの最後には、彼が彼女の苗字に変わると言う
事にまでなったそうだ。
彼が苗字を変えてもいいと言ってきたのだ。
婿に入ってもいいとも・・・。

でも、それは安易の事ではなかった。
彼の両親は怒り心頭になり、決まっていた結婚式場をキャンセルし、彼女の彼の家への
訪問を一切禁じてしまったのだ。
苗字が嫌だから結婚出来ないのなら、最初からうちの息子となんか付き合わなければいいと
言う事なのだ。

そんなこんなで彼との仲も気まずくなり、とにかく一旦距離をおいて、
もう一度考えようという事になったという事だった。

「私もよく考えたんですけど、苗字が嫌なくらいで駄目になるんなら、
結婚しても駄目だったんだろうな~と思えるようになったんです。
本当に彼の事愛しているのか、分からなくなっちゃたんです。
でもこんな事で結婚破棄になっちゃうなんて・・・」
彼女の瞳はうっすら赤く潤んでいた。

「本当に良かったの?」
彼女に言って上げられる適切な言葉が見つからないまま私は聞いていた。
少し答えを躊躇した後、彼女がポツリと言った。
「先生、結婚って・・・、好きな部分だけじゃ駄目なんですね。大変な事が多い・・・」

現実鑑定に来た人の中でも、当人同士の問題ではなく家族の問題や
その他いろいろな問題で決まっていた結婚を取りやめた人が何人もいる。
結婚が決まった後で出てくるそれぞれの問題は、決して恋愛中に分かる事ではない事が
多い。

彼女の場合も、彼との相性も良くお互いの結婚の時期も合っていて、
二人の間には何の問題も無いはずなのに、ちょっとした事で崩れてしまった。

今、巷では上手くいかなければ離婚すればいいという気持ちで結婚する人も多い。
しかし結婚に結び付くまでの出会いはそんなに簡単にあるものではない。
私の所に相談に来る女性の殆どが出会いが無い、どうしたら出会えるかということを
聞いてくる。

折角結婚までたどり着く出会いがあったのなら、
そのチャンスを最後まで活かしてもらいたいと思う。

「今度の事で、勉強になりました・・・。色々心配掛けて済みませんでした」
そう言った彼女の飾りを無くした左手が震えていた。

迷子になってしまった彼女の婚約指輪は、今、何処を彷徨っているのだろうか?

私は近い将来、彼女の左手の薬指にもう一度素敵な指輪が輝く事を願わずには
いられなかった。

彼女の震えた左手が、
今は少しの間、あのエンゲージリングに
そっと「さようなら」と呟いているように見えた。

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