≪人間関係 犬の散歩  NO.2≫

≪人間関係 犬の散歩  NO.2≫

6月に入って、梅雨を前に天気の悪い日も出始めたある朝、5月1日以来欠かさず檜町公園に毎朝凄く張り切って行っていた私だったが、初めて出掛ける事に少し躊躇して、いつもより1時間くらい遅くなって檜町公園に行く事になってしまった。 

当然ながら、いつもの風景とは違い、自民党も野党も、そして財前教授率いる医師軍団も既に公園にはおらず、『何とか詣での』ブルドックとその飼い主のボスも居ない。
公園の中を走ったり歩いたり、そして犬の散歩をしている人々は全てと言っていいほど、初めて会う人々だった。
それで、私はいつも通り、すれ違う人達に挨拶をしながら、いつもとは少し違う時間の流れを感じながら歩いていた。

すると、いつもの時間にトイ・プードルという種類の犬を散歩している男性の方も今日は遅かったのか、一緒になった。
「おはようございます!」私が言うと、
その男性はすぐに私に気が付いたようで、「おはようございます!今朝は遅いんですね~?」と返事をしてくれたので、
「そうなんですよ~、何だか気分が乗らなくて、すっかり遅くなっちゃいました」と私が返すと、
「あ~、私も同じです、牛若丸、あっ、この子『牛若丸』って言います。
この子には本当に申し訳ないのですが・・・」
その彼の言い方が本当にワンちゃんに申し訳なさそうだったので、凄くワンちゃんを愛しているのだな~と思っていたら、
「他のワンちゃん達と遊ばせてあげたかったのですがね~」と彼は付け加えた。

そのまま、私も今朝はすっかり走る気がなかったので、彼と『牛若丸』と一緒にゆっくり公園の中の歩道を歩き始めた。
「いつも見ていて思うんですけど、皆さん、凄く仲いいですよね~。みなさん、あのダックスフンドの飼い主さんの知り合いなんですか?」
「いえいえ、みなさんここで知り合ったんですが・・・」
彼があまり話をしたそうではないようだったので、私はもう一度『牛若丸』の頭を撫でてから少し走ろうと思った。

すると、急に彼が話し始めた。
「他人の貴方にこんな事を話すのも何なんですが、実を言うと、あのダックスフンドの飼い主の方が私は凄く苦手で・・・、いや凄く本当に良い人なんですよ、うちの牛若丸の事なんかも物凄く可愛がってくれて、本当・・・」
私は彼の言っている事、そして彼が言いたい事がすぐに私には理解出来た。
「じゃあ、もしかしたら、それで、今朝はわざと遅い?」
「はい、1週間に2回から3回くらいはわざと遅く散歩しているんです!牛若丸は他のワンちゃん達と仲がいいので、凄くみんなと会うのを楽しみにしていて遊びたいと思うのですが・・・、私のせいで可哀想な事をさせてしまっています」

彼の話を聞いて分かったのだが、
彼は1年半くらい前に退職していて、その前までは奥様が『牛若丸君』の散歩をしていたが、それを機会に彼が散歩をするようになり、この公園に来るようになって、最初はワンちゃん同士、お尻の臭いを嗅いだりするだけで、「ありがとうございました!では又!」で、すんでいたのだが、半年前くらいに飼い主何人かと何匹かのワンちゃんが一緒になった時があって、ワンちゃん達をみんなで芝生の上で遊ばせたら凄くワンちゃん達も喜んだので、それ以来、今のような状態になったらしく、
現実、そのダックスフンドの飼い主の方もコミュニケーション能力も高く、誰でも受け入れ大変フレンドリーなので、みんなも彼を慕うようになって、そして彼も面倒見もいいので、
いつの間にか、彼がボス的な存在になったらしい。

「いや、私と同じように少し彼が苦手で、前は私達と一緒にワンちゃんを遊ばせていた人もいるんですけど、
実を言うと、今は同じ時間に散歩に来て、挨拶だけして、そのまま堂々と散歩している飼い主の方もあの時間帯には何人もいるんですよ。自分もそうすればいいですけど・・・・。」
確かに、思い返してみれば、私がいつも見ていると、ボスの傍にワンちゃんと行き、挨拶だけしてその場に留まらず、そのまま散歩を続けている人達も何人も居るが、私がこの『牛若丸』の飼い主の彼をしっかり覚えていたのは、彼がいつもボスの取り巻きの一人として、ボスの近く居るからだとあらためて思った。

「私、会社の時に人間関係があまり得意ではなくて、退職前にも何年も凄く嫌な思いをしたので、なかなかそう割り切って出来なくて・・・。
牛若丸のせいにもしたくないですしね。寧ろこの子がしっかりコミュニケーションを取ってくれていますから、それだけが救いで・・・。
ただ、退職してやっと人間関係から解放されたと思っていたら、又ここでも人間関係か・・・です!」

いやはや、ここにもか~・・・。
人間関係はやはり何処に行っても、そしてどんな時でも、ついて回るというか、有るのですね~。
こんな言い方は失礼かも知れないが、たかが犬の散歩なんですがね~!
生きていくという事はこういう事なんでしょうね。

私は大きなお世話だと思いながらも
「貴方が言うように、あの方が本当に良い方なら、貴方がどんな態度を取っても、きっと許してくれるというか、認めてくれるだろうし、貴方が思っているほど、彼の方は色々な意味で気にしていないと思いますよ。
だって、ここは会社ではないのだから・・・。
それに、失うものもないですから、自分のしたいようにした方がいいですよ。
このままで貴方の具合が悪くなったら、『牛若丸君』の散歩が出来なくなったら、本当に『牛若丸君』が可哀想じゃないですか・・・」と『牛若丸君』の頭を撫でながら言った。
「そうなんですよね~、分かっているんですけどね~、私が気が小さいばっかりに本当になさけないです・・・」
彼と別れる時、飼い主とは違い、凛として大地に足を付けどっしり構えた『牛若丸』が私を見送ってくれた姿が印象的だった。

あれから、偶然にも私はいつもより、30分くらい早い時間に出掛けているので、彼と『牛若丸君』には会えていない。
来週からは私は又元の時間に出掛けるので、又彼と『牛若丸君』にきっと会えるだろう。
さてさて、彼の勇気は実行されただろうか・・・。

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