「運命の扉 NO.11」 ~ 人形の家 ~

『運命の扉 NO.11』 ~ 人形の家 ③ ~

「それで、主人と別れたいんです。
今となっては・・・、あえて今の主人に不満もないし、問題もないですが・・・。」
「御主人には、離婚したい事は話したんですか?」
「いいえ、主人は知らないです。
でも子供達は大賛成してくれています」

彼女の身の上話をずっと聞いていた私は、よく今まで我慢して離婚しないできたと
感心するくらい彼女の御主人は誰が聞いても勝手な人だった。
子供達が呆れて御主人のことを無視しているのも、よく理解出来た。

御主人は歳も取ったせいか、今は昔のように女出入りは無くなったが、相変わらず亭主関白で彼女の話などいっこうに聞こうともせず好き放題生活しているという。

「御主人、すんなり離婚すると思います?」
「主人は、後2年で定年退職するので、退職金も充分出ると思いますし、家のローンも
後1年で終りますし、生活的には全然問題ないと思います。
私も子供達も主人には必要ないと思うんです。
・・・、今まで一度も必要とされなかったので」

彼女の話はもっともだった。

いわゆる、よくテレビやマスコミなんかで騒がれている「熟年離婚」が現実のものとして
そこにあった。
私は始めて「現実は小説より・・・」という言葉を思い出していた。

何年も連れ添った相手と歳を取ってから別れるなんて、本当に出来るのだろうかと思っていたが、こうやって現実に目の前で話を聞いてみると沢山あるんだろうなと思えた。

最初は、怒って、喚いて、泣いて・・・、
そして我慢して、耐えて、空しくなって・・・、
いつのまにか何も言わなくなって・・・。

彼女は結婚して最初の5年は確かに幸せだったのだろう、
しかし、その後の27年は・・・。

「今は、凄く幸せなんですよ。息子も娘も結婚するまでは、私と住みたいと言ってくれてますし、再婚してもいいよ、なんて事も言ってくれてるんです。
離婚したら、3人で家を出るつもりです。」
そう言って笑った彼女の顔には、私の知らない辛い時期を過ごしてきた面影は、
今は一切感じられない。

私は彼女の社会運が良いので、
これから仕事をして沢山の人と出会う事で彼女自身も良くなるし、又まわりの人を幸せに
出来る事とお店を出す一番良い時期をアドバイスした。

彼女は、これから経理関係の学校にも通うのだと言っていた。

私は、何歳になっても自分がやりたいという強い意志と今までの貴方の根性があれば
絶対大丈夫という事を言葉の最後に添えた。

その言葉に彼女は、少し照れ臭そうに、
「恋もですか?」
「ハイ、恋もです!」

『人形の家』から飛び出したノラは、彼女特有のゆっくりしたペースで自分の幸せを、
今、つかむ為にもう一つの『人形の家』を出ようとしていた。

ノラが残していったシャネルの5番の残り香が、彼女の首から外された首輪のように
彼女の座っていた椅子から彼女が帰った後も長い間漂っていた。

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