「運命の扉 NO.15」 ~ 孤独の肖像 ~

『運命の扉 NO.15』 ~ 孤独の肖像 ③ ~

破局は同棲を始めてから8年後の事だった。
彼には2年前から付き合っている女の子がいて、
その女の子が妊娠した事で彼女の前に突然知らない女の子が現れた。

「別れてもらえませんか?私と彼・・・、困っているんです」
震える涙声で、彼の留守にやって来た若い女の子は彼女にすがる様に言った。
「エッ?何?何?何?」
状況を全く理解出来ない彼女は、
『何でこの子泣いているんだろう?』と思うばかりで、慌てて
「どうしたの?どうしちゃったの?泣かないで話して!」
と、彼女に同情する事ばかりを言い続けていた。

自分に優しくしてくれる彼女に安心した女の子は、彼との事、妊娠の事を彼女に説明した。
彼女は気が遠くなっていく自分の身体を必死に支えていた。
『何をこの子は言っているのだろう?誰と付き合っているんだろう?
誰の子を妊娠したと言うのだろう?』
彼女の理解出来ない、いいえ拒否反応を示す頭の中を女の子の言った言葉が
単語の渦となって回っていた。

暫く呆然とその場に座ったまま、女の子の向こうに見える彼の顔を思い出していた。
どの位の時間が経ったのだろうか・・・。
沈黙と気まずい空気が二人の間に漂っていた。
『何故、私はこの子を家に入れたのか?』
彼女は後悔でいっぱいになった。聞きたくなかった、無かった事にしたかった、すべて。

我に返った彼女は女の子を帰した。
何も言わない彼女に女の子は不思議な顔をしていたが、
「よろしくお願いします」とだけ言って帰っていった。

女の子が帰ると急に憎しみが沸いてきた。
「何が、よろしくなのよ!・・・」
堪っていた感情が溢れんばかりに口をついて出てきた。
「何なの!あの子は!可愛い顔して!私は何年も前から、彼を知ってるんだから。
ふざけないでよ!」
いつしか彼女は泣き叫んでいた。

その日の夜、彼は8年間で初めて家には帰って来なかった。
彼女は一睡も出来ないまま朝を迎えた。
朝になると、怒りより寂しさが彼女を襲っていた。
これから先の事を考えると頭の回線がショートしたように急に真っ暗になってしまった。

彼女は会社を休んだ。
部屋は昨日投げつけた物で足の踏み場もない状態だった。
振り乱した髪の毛と泣き腫らした顔を鏡に映しながら、彼と女の子の顔を
交互に思い出しては止めどなく流れる涙を拭きもせず、何とか頭で考えようと必死だった。
その時の彼女は確実に次の行動選択の一番に『死』を準備していた。
このまま消えてしまいたい、もう何も知りたくない、何もやりたくない、
そんな思いばかりが彼女の身体を包み込んでいた。

時間だけが過ぎる事を望みながら、過去に戻ろうとする自分に絶望感を
既にこの時感じていたと言う。
『妊娠』という重い二文字が彼女に一番打撃を与えていた。
彼女も彼の子供が欲しかった、同じ女として彼女におろせと言う事は絶対出来ない事も
分かっていた。

その夜帰って来た彼は一言も言い訳もせず、ただ一言
「すまない、ごめん」とだけ言った。
彼女が喚こうが泣き叫ぼうが殴ろうが、彼は黙って耐えていた。
前日から寝ていなかった彼女は疲れてそのまま眠ってしまった。
朝方目が覚めると、彼は彼女の寝ているベッドに寄り掛かったまま眠っていた。
彼女がベッドから出て彼を見つめていると、彼も起き上がり最後の一言を彼女に告げた。
「幸せに・・・、出来なくて、ごめん・・・」

それは本当に別れを意味していた。
こんなに泣いて、もう涙は一滴も残っていないくらい泣いたのに、彼女の目には滝のように
流れる涙がこぼれていた。
彼はそんな彼女を最後に一度だけ強く抱きしめると、自分の荷物を片付け始めた。

彼女はもう何も言えなかった。
言っても何も変わらない事が分かっていた。
台風が通り過ぎたように、静まり返った部屋の中で彼が荷物を整理するのを
彼女は遠い思い出の中で見つめていた。

彼が出て行った後、1400万円分の思い出が詰まった貯金通帳とカードだけが
テーブルに置かれていた。
彼女が通帳をめくると、
【お金で解決できる事ではないけど、ごめん】と小さなメモ用紙が挟まっていた。


④につづく

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